次の日
温かい朝の日差しで目が覚めた。野営中にモンスターに襲われると困るので僕と彩奈は交代で寝ることにしていたのだが、朝起きると見張り役だったはずの彩奈がよだれを垂らしながら寝言を言っていた。辺りを見渡すと坂の上でクロが川辺の方を見ている。
彩奈のやつ見張り番をクロに押し付けやがったな。
「えへへ、あたしが真の勇者だぞ、むにゃむにゃ」彩奈が寝言を言っている。
「起きろ彩奈、朝だぞ」僕はそう言って、彩奈を起こした。
「えへへへへ、え、朝? はっ」彩奈は気まずそうに僕の方を見た。
「おはよう彩奈。見張り番はどうしたんだ?」
「え、えっとその、あの・・・・・・。ごめんなさい」
「ったくもう、勇者なんだから寝ることくらい我慢できるようになれよな」
「で、でもさ。誰も襲われていないんだし、結果オーライじゃない? ね? ね!」
って事はクロに頼むこともせずに勝手に寝やがったって事か。全く、神がいるなら勇者の称号を渡す人を間違えたんじゃないのか?
「ほら、クロが代わりに見張り番してくれてたぞ」
「え、クロちゃんが見張り番してたの?」
二人で話していると、僕たちが起きたことに気が付いたのか、クロが僕たちの方に来た。
「わん!」
クロに魚を取ってもらい、朝食を済ませると、王都へ向かって歩き出した。昨日野営した場所で、キギリ村から王都までの道の七割以上は進んで来ている。このまま何事も無ければ午前中には着けそうだ。
「響希きゅうけ~い! ねぇ響希~。響希ってばぁ~」
「うるさいなぁ。まだ一時間くらいしか歩いてないだろ。そんなんだと日が暮れちまうぞ」
「嫌だぁ~。でも歩けないぃ~」そう言うと、彩奈は座り込んでしまった。
あ、彩奈のやつ、まったく、勘弁してくれよな。
彩奈が座りながら水筒の水を飲みだした。それを見たクロは彩奈のところに行き、彩奈から水を貰い一緒に飲んでいた。
ガサガサッ ガサガサッ 休憩している彩奈の近くで茂みが音を立てて動き出した。
「彩奈、モンスターだ。戦闘態勢に入れ!」僕がそう言うと、座っていた彩奈がおろおろしながら僕のところに来た。
僕も腹をくくったとは言え、僕が侍で彩奈は勇者だ。きっとそこら辺にいるモンスターなんぞ彩奈が倒してくれるに違いない。
「無理、マジ無理、あたしモンスターと戦ったことないの! マジで無理だから! 助けて!」
「なんだと⁉ お前勇者の職に就いてるんだぞ、助けてって正気か⁉ 頭ぶっ壊れてんじゃねーか⁉」
僕もモンスターとは戦ったことが無いので、彩奈が戦ったことが無いのはしょうがない。でも、勇者の職に就いているんだぞ、魔王討伐を任されることなんて名誉なことだって言ってたんだぞ、魔王討伐に行くんだぞ、モンスターの親玉である魔王と戦おうとしてるんだぞ! 茂みのモンスターくらい彩奈も戦おうとはしてくれよ。
ガサガサッ ガサッ 茂みからは一匹のゴブリンが顔を出した。
「きゃー、モンスターだぁ! 死ぬぅ、死ぬぅ」
「魔法の杖持ってるじゃんか! 魔法で戦ってくれよ!」
「無理ぃぃぃぃ! 死ぬぅ、死ぬぅ」
クソ、彩奈は僕の後ろに隠れていて、使い物にならない。だからと言って下級モンスターのゴブリン一匹が相手でも一度も戦闘経験のない僕が戦って何とかなるかは危うい。そうだ! クロに加勢してもらおう。
「クロ! ・・・・・・。」クロは仰向けになってピクリともしなくなっている。まるで魂が抜けているようにも見える。
ちくしょう、クロのやつ死んだふりしてやり過ごそうとしてやがる。ここは僕一人で戦うしかないのか⁉
響希は昨日そこら辺で拾ったちょうどいい長さの棒を手に取って構えた。
「キーキーキー キキーッキー」
「何かキーキー言ってるが先手必勝だ。こっちから行くぜ! うおりゃぁぁぁぁぁー」
響希は木の棒を勢いよく振り回し、ゴブリンの頭を殴りつけた。ゴブリンは頭を殴られ、ふらふらしている。死んだふりをしていたクロはそれを見て起き上がった。
「わん!」そう言うと、クロはゴブリンのところに走って行った。
「おお! さすがクロだ。戦う気になってくれたかぁ偉いぞクロ!」
クロはゴブリンの腕をちょこっとひっかくと、クロはそそくさと木の根元へ戻り、再び仰向けになって死んだふりを始めた。ゴブリンはかすり傷一つ付かなかった。
(((超絶意味ねぇ!)))
ゴブリンは頭を横に振るとクロの方を見たが、死んでいると思ったのか、響希の方を向いて「キーキー」と言うと、響希めがけて襲い掛かってきた。
「キーキーキー」
幸いなことに、ゴブリンは武器を持っていなかったので、木の棒を持っている僕の方がリーチは長い。僕は走ってきたゴブリンの脇腹めがけて木の棒で攻撃した。
「おりゃぁー!」
しかし、ゴブリンは後ろに跳んで攻撃をかわした。
「クソっかわされたか」
「響希、早く倒して、お願い早く!」
「分かってるよ、お前も戦えよ!」
「無理、あんたが死んだらあたしも死んじゃう」
「ったくもう」
僕たちが会話をしている間にゴブリンはそこら辺に落ちている木の棒を拾った。
「キーキーキー」
「な、ゴブリンのやつ武器を持ちやがった」
「ほら、あんたがのんびりしている間にゴブリンが成長しちゃったじゃない! 死ぬぅ死ぬぅ~!」
(((うるせぇな)))
「キーキーキー」ゴブリンは僕の方に向かって走って来て、僕がやったのと同じように木の棒を振りかざした。
カコン 僕は木の棒を横にして両手で持ち、頭の上で攻撃を防いだ。
ゴブリンの攻撃はそんなに強くない。ゴブリン一匹くらいなら俺でもやれるか? いや、気を抜くな、相手はモンスターだ。どんな攻撃を仕掛けてくるか分からない。
僕はゴブリンの木の棒を僕が持っている木の棒で押し返して振り払うと、両手で木の棒を構えた。今度は僕がさっきゴブリンの頭を攻撃した時と同じように木の棒を振りかざし、上から下に振りかざすように攻撃を仕掛けた。
「でりゃぁぁぁー」僕の攻撃を、ゴブリンは両手で木の棒を持ち、僕がやったのと同じように木の棒で防いだ。そして、ゴブリンはニヤリと笑うと、僕がやったこと同じやり方で僕の木の棒を押し返してきたので、僕はすかさず後ろに跳んだ。
このゴブリン、僕との戦闘で戦い方を学んでやがる。
僕は彩奈とクロの方に振り返った。
「彩奈、クロ、加勢してくれ! 僕一人じゃ倒せないかもしれない」
僕はそう言って振り返ったが、いつの間にか彩奈もクロの横に居て、木の根元で寝そべっていた。二人とも寝そべったまま全く返事もせず、魂が抜けたような顔をしていた。
(((このゴミども、二人して死んだふりしてやがる)))
「本当にヤバいんだって、このゴブリン戦い方を学習しているんだよ!」
僕がそういうと、彩奈と黒がボソッとこういった。
「今は無理だけど戦いが終わったら生き返るかもしれない」
「わうぅ~」
「クソったれゴミクズやろう共が‼」
ダメだ、あいつらは当てにならない、ここは僕一人で何とかしないと。
「キキッ」ゴブリンは棒を振り上げると今度は横から木の棒で殴りつけてきた。
僕は姿勢を低くし、木の棒をお腹の部分と被るように構え、横からの攻撃を木の棒で防いだ。そして、すぐさまゴブリンの腹めがけて木の棒を突き刺すと、ゴブリンに攻撃が当たり、「ウギィ」と言って後ろに跳んで下がった。
よし、攻撃が当たったぞ。
ゴブリンはお腹を擦っている。
「ギギィ」
今ゴブリンが使った技と同じように横から攻撃を仕掛けても、僕が今使った技と同じように攻撃を返されてしまう。だったら、こうするのが妥当か、頼む、僕の考えがあっていてくれ。 僕はゴブリンに向かって走り出した。


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