僕は神主に言われた通り、水晶玉に手を当てて目を瞑って念じた。
(人生楽に過ごせる職業、人生楽に過ごせる職業、人生楽に過ごせる職業)
そう念じている間に何か声が聞こえてきたような気がした。
「キャンッ! アンッ! ワンッ!!」 神社の外から、本日4回目と思われるクロの盛りのついた鳴き声が、僕の近くで鳴り響いていた。
(・・・・・・クソっ、あいつのせいで集中できねぇ! ガチでシバくぞ?)
僕はクロがうるさすぎて、目を瞑ったまま気が散っていて集中できない状況に陥った。そうこうしている内に、彩奈程ではなかったが、水晶玉が光りだし、僕の手に紋章が浮かび上がった。神主はその紋章を見て驚いていることが分かった。
「君の紋章もすごいね。侍だよ。こりゃあたまげたの」
「侍? 大昔の武士とかのやつですか?」
「如何にも。そうだね、君も王宮に行くんだよ。折角だしさっきの勇者の子と二人で行ってきたらどうだい?」
「なんですと⁉ 何で僕が王宮に行かないといけないんですか?」
「君、知らないのかい? 職業の適性検査の年齢引き下げと同時に、実践戦闘に対して優秀な職業だと判断できる人は、魔王討伐の補佐として魔王討伐に行くことが決まっていて、一旦王宮へ向かうことになっているんだよ」
マジかよ! クソッ、なんで楽に過ごせる職業を願ってんのに魔王討伐に行くことになるんだよ。はっ、クロか? あいつのせいか⁉ あいつのせいで気が散ったからか⁉
「因みに・・・・・・王宮に行かなかったらどうなるんですか?」
「う~んそうだねぇ、最悪国家反逆罪かもね。多分ね。(小声:なんかよく知らないけど)」
国家反逆罪だと⁉ 罪人になるってことじゃんか。そんなの絶対無視できないじゃん。終わった。僕の人生絶対終わった。このまま魔物に食われて死ぬんだろうな。・・・・・・トホホ。
僕は憂鬱になりながら帰宅すると、倒れるようにベッドに横になった。適性検査での疲れと、王宮に出向かなければならないこと。魔王討伐をさせられることへの不安から体が重く、倦怠感が出た。何も考える気にならず、ボケーッとしながらベッドの上で天井と見つめ合っていた。食事が喉を通らないというのはこの事なんだろうか。一向にお腹が空かず、頭がぼーっとしている。
彩奈は勇者だし、いざとなったら彩奈に戦ってもらって、僕は身を隠しているってのは・・・・・・彩奈が許すわけないか。あんたもしっかり戦いなさいよ! とかって言ってきそうだよな。はぁ、いい加減、腹括るしかないのかな。勇者である彩奈と二人なら何とかなるかもしれないし、彩奈はそこら辺の男よりたくましい。戦いの時に、いざとなったら頼れる相手なはず。
数時間は経っただろうか。夜の静けさが体を包み込むように辺りが暗くなっている。時計を見ると深夜の0時ごろだった。さっきまで食事ものどを通らなかった僕もいい加減腹が減った。それでも体には倦怠感があり、体がだるくて重い。夕飯は簡単な物を作る事にしよう。
昨日のスープと茹でただけの芋、焼いただけの肉。料理が趣味だったからこんな質素な夕飯は暫くぶりだ。それでも今日はしっかり美味しい気がする。静かにゆっくり落ち着いた食事をするのも中々悪くない。深夜の静けさもあって、家の中も居心地のいい空間だな。もうすぐこの部屋ともお別れか。モンスターの恐怖におびえて、この安心できる静けさはもう味わえないのだろうか。
そんなことを思いながら僕が夕飯を食べていると、愛犬のクロが帰って来た。
ガチャ (扉があく音)
「わんわんわん わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわん」
(((突然うるせぇ!)))
「深夜の静けさが台無しじゃねぇか! ・・・・・・どうせクロも腹が減ってんだろ。こんな時間までセックスしている犬はお前しかいないぞクロ。さて、クロには芋とスープをくれてやるか」
僕が芋とスープをクロの器に入れてやると、ものすごい勢いでクロががっつきだした。
あばばばばば(クロが飯を食べている)
「全く、僕がどういう状況かこいつには分からないよな。こいつとももうお別れか。こいつとは何の思い出も無かったけど、いざこいつとももう会えないと思うと・・・・・・思うと・・・・・・すまねぇクロ、寂しいとか悲しいとかそういう感情に全くならなかったわ」
クロはへらへらしながら僕の方を見たが、また飯をがっつきだした。
あばばばばば(クロはへらへらしながら飯を食べている)
ん? いや待てよ。僕が魔王討伐に出かけたら誰がこいつの面倒見るんだ? さすがにこいつは連れてけないし。ヤバい、早く里親探さないと。それにしてもこいつは頭が悪すぎてここら辺じゃ有名だし、里親になってくれる人なんかいないんじゃないのか? ・・・・・・もし里親が見つからなかったらクロの世話があるって言えば僕が魔王討伐に行くことは無くなるかもしれない。そうか、その手があったか!
「よっしゃぁぁぁーでかしたぞクロ! 人生で初めてお前がいてよかったと思える日が来たぞ!」
「わんわんわんわん」
「そうか、よく分からないけど飯が食いたいんだな」
「わんわんわんわん」
「おお、おお、おお、しっかり食え、たーくさん食え! お前は本当に良い犬だな、ははっ最高の犬だよ。お前がいてくれてよかったぁ。本当に良かったよ。虫網で捕まえて正解だったよ。まさかこんな日が来るなんて思わなかったな」
「あばばばばばば」クロはがっついて飯を食い散らかした。
「ははっ。しっかり食えよ」
「わん!」
次の日
「ええ、分かったわ。これから宜しくね、クロくん」
「わん!」
チクショウ! 里親探して一発目の家で里親が見つかっちまった。しかもこのクソ犬もう僕のことなんざ何にも気にせずへらへらしながら家に入って行きやがった。一度でも最高の犬だと思った僕がバカみたいじゃないか! クロのやつ振り返るそぶりも見せずにスッと家に入って行ったぞ。もう僕が魔王討伐に行くことは確定しちまったじゃねーか。本当にゴミだよこいつ。ゴミ犬は最後までゴミ犬だったな。
新しいクロの飼い主が見つかったので、もう僕は魔王討伐に行くことを避けては通れない。魔物に食い殺されないために、せめてもの気持ちで勇者の職に就いた彩奈と一緒にこの村を出るため、彩奈の家に向かった。

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