登場人物紹介
影原 響希
石神 彩奈
響希のペット クロ
千年前突如魔王が出没し、魔王軍は瞬く間に世界を掌握した。世界が恐怖と混乱に満ち溢れている中、勇者の職を持つものが現れ魔王討伐に挑んだ。勇者一行は見事魔王討伐に成功し、世界には再び平和が訪れ人々は穏やかな生活を送ることができるようになった。
しかし、それから千年の時を経て、再び魔王が復活を遂げてしまった。魔物の出没や目撃情報が徐々に増えていき、人々の平穏な生活が脅かされ始めた。カザス王国の国王陛下が勇者の職を持つものを探すため、大陸全土で捜索を始めてから早三年。
一刻も早く勇者の職を持つ者を探すため、職業の適性検査の年齢を十八歳から十六歳に引き下げたのであった。
僕が住む村。キギリ村は、人口が少なく人より犬の方が沢山いる。人より犬の方が多いことについてなのだが、それは、犬に去勢するという文化が無く、犬がそこら中でセックスしまくっているからだ。
僕の家も雄の犬を飼っていて、愛犬の名前は「クロ」。僕が幼い頃、神社に一匹で居た子犬のクロを、虫網で捕まえてそのまま家に連れてきて飼っている。残念なことに、クロは頭が悪かったらしく、そこら辺にいる野生の犬と毎日のようにセックスしている。村が犬だらけになってしまったのは半分こいつが原因なのではないだろうか?
今年で僕も十六歳になった。そして、今日が今年十六歳の人が、職業の適性検査を受ける職業授与の日だ。今はどこの村の近隣でもモンスターが大量に出没していて、農作物が荒らされたり、人が襲われたりして怪我人が出るなど、モンスターによる様々な被害が出ている。僕がもし勇者の職に就いたら必ず魔王討伐に行かなければならない。僕はこの村が大好きで、一生この村から出なくてもいいと思う程この村の暮らしに満足している。はっきり言って魔王討伐なんてしたくない。僕にとって一生に一度の職業の適性検査は憂鬱以外の何物でもない。しかし、職業を得ないと将来の仕事や人生の選択肢が限られてしまう。
職業が戦士の人は剣の扱いが上手くなり、魔法使いの人は魔法が使えるようになる。僕はある意味超レア職業である農民になれたら超絶嬉しい。しかし、農民にならなくても農業はできる事から、基本的には神から与えられた職業の夢を諦めて帰省した人が農業をする。
僕には大きな夢が無くて、このまま農業をしながらのんびり暮らせたらな。という、変化を求めないタイプだ。少しでも変化が起こる可能性のある職業の適性検査に、憂鬱な気持ちを抱きつつも僅かな希望を捨てず、職業の適性検査の会場である神社に向かっていた。
神社までは河川敷を通って行けば三十分くらいで着ける。今日は清々しい程の青空が広がっていて、暖かな日差しに涼しい風が吹いている。職業の適性検査のことなんか忘れてしまう程、朝の河川敷はポカポカとしていた。今日はいつもより一層気持ちがよく、僕の憂鬱だった気持ちを晴れ晴れとさせてくれる。そんな気がした。
「良い村で育ったよな、ずっとこの村に居たいよな」
見渡す限りの青空。見渡す限りの広大な農地。見渡す限り・・・・・・。河川敷の反対側にはクロがいて、朝っぱらからそこら辺の知らない白い犬とセックスしている。
あのバカ犬! クロさえいなければ最高の朝だったのに、全くなんてことしてくれてんだ! また犬が増えちまうじゃねーか!
僕はズコバコセックスしているクロを放っておいて神社に向かった。神社では人だかりができていて、正月の朝参りのようだった。神社の右側の通路には僕と同い年くらいの若い人たちが並んでいて、立て札に十六歳専用通路と書いてあった。僕はそっちに行って並んだ。並んでいる十六歳の人たちは全員で三十人くらいいた。その中の一人に知った顔の奴がいて、僕と目が合うと列を抜けて僕の方に向かって歩いてきた。
「響希、おはよ」
「おう、おはよう彩奈」
彩奈は僕の幼馴染で、幼い頃は毎日のように遊んでいた。見た目は凄く美人だが、男勝りで、そこら辺の男なんかよりずっと逞しい。彩奈と遊んでいた時は、彩奈が危ない道ばっかり通って進んでいくので、僕は毎日のように怪我をしていた。
「何かあんた元気ないわね。折角の記念すべき職業授与の日なのに、何でそんな辛気臭い顔してるのよ」
「今は魔王討伐だのなんだのに行って死んじまう可能性があるんだ。そりゃぁ憂鬱にもなるだろうよ。僕は死んでも職業授与なんかされたくないね」
「どうせ死ぬなら魔王討伐しなさいよ。まあ、あんたが勇者に選ばれたらの話だけどね。そんなこと絶対にないと思うけど」
「本当に絶対ないなら僕だって職業授与は大歓迎なんだぞ? 万が一って事があるから僕は、」
「あ~あ~あ~うるさいなぁ。無いって言ってるでしょ。この、バカチンコ!」
(((唐突に、突如として悪口を言われたぞ⁉)))
「ま、まぁ、絶対ないなら良いんだけどな」
「大陸全土でこんだけ探して、いまだに見つかっていないのにあんたが勇者なわけないでしょうよ」
「うん、確かに! なんかちょっとだけ元気が出てきた! 確かに僕が勇者になる可能性ってほぼ無いよな」
「あと、何かさ、今朝あんたんちのクロが茶色い犬とイチャイチャしてたわよ」
「おおう⁉ この数分で茶色い犬だと⁉」
「なによ、いつものことでしょ? 全くあんたんちのクロは死ぬまでに何匹犬を増やすつもりなのよ」
僕が見た時は白い犬だったよな。あいつ三十分もしない内に何匹の犬とセックスしてるんだよ。あの犬の性欲どうなってるんだよ、ってか何でここにいるんだよ! 僕をわざと先回りしないとこの状況にならねーだろ! 子犬の時はあんなに可愛かったのに、いつの間にかあんなに見境なく成りやがって。
「あ~、あれだ、あいつはバカなんだ。気にしたら負けだ」
「全く、あんたんちの犬でしょ? あたしは可愛いワンちゃんが増えていくのは別に良いんだけどね。・・・・・・それにしても増えすぎな気もするけど」
「すまんな、あいつ言っても聞かないから」
「あらそう」
「そう言えば、彩奈は魔王討伐に行くことになっても平気なのか?」
「魔王討伐を任されるなんてすごく名誉ある事じゃない? 少なくともあたしはそう思うけど」
「そうか、僕は死んでも嫌だがな」
「どうせ死ぬなら魔王討伐しなさいって言ったでしょ?」
「へいへい」僕はゆっくりとやるせない返事をした。
「ほら、もうすぐあたしたちの番だよ」
僕たちが並んでいた十六歳の人の列は、僕たちが喋っている間にいつの間にか並んでいる人の数が少なくなっていた。辺りを見渡すと、胴上げされている人、泣いていて家族に励まされている人。嬉しそうに友達と話している人。グレーの犬とセックスしている黒い犬。一度言い渡された職業からは一生変わることはない。皆色々な思いがあったという事がじわじわと伝わってきた。ん? あの黒い犬うちのクロじゃねぇか! ざけんなあの犬! しばくぞ!
「ねぇねぇ、次あたしの番だよ! 響希見ててね!」そう言うと、彩奈は神社の祭壇の前に立ち、中央に置かれている水晶玉の前に立った。そして、神主からの説明を受け、水晶玉に手をかざし目を閉じた。水晶玉は徐々に光が増し、辺りが巨大な光に包まれた。
すげぇ光だな。ざわざわしていた周りの人たちの声も聞こえなくなったぞ。
水晶玉から出た光が彩奈の右手に吸い込まれ、彩奈の手の甲に紋章が浮かび上がった。神主は彩奈の手を見てこう言った。
「おお! これは素晴らしい。皆さん聞いてくださいこちらの方は勇者の紋章が浮かびました。我々の村から勇者が誕生したのです! こんなにおめでたいことはございませんよ!」
「「「うおぉぉぉ!」」その場にいた人は感極まって各々が彩奈のことを褒めちぎっている。彩奈が神社の祭壇から降りると、感極まっていた人たちがものすごい勢いで彩奈の方へ近寄って来て、沢山の人たちに囲まれて、身動きが取れなくなってしまっていた。
「たす・・・けて・・・かな・・・た・・・ぐはっ!」
ははっ、なるほどな。これで僕が魔王討伐に行くことは無くなったのか。頑張れ彩奈。生きて帰ってくることを信じてるぜ。そんじゃあ、彩奈の検査が終わったみたいだし僕も気楽に適性検査を受けるとするかな。がーっはっはっは。楽しみだなぁ。どんな職業に就けるんだろう。
僕は神社の中に入ると、ボケッと彩奈の方を見てる神主に声を掛けた。
「僕も測って良いですか?」
「ああ、彼女が最後じゃなかったんだね。良いよ水晶玉に手を当てて目を瞑ってどんな職業がいいか心の中で念じるんだよ」
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